幾花にいろ

逆NTRの視点で女がとことん主導権を握る展開にゾクゾクする人向け。この記事では幾花にいろの単行本『丹』に含まれる短編のタメになる所・骨太な心理戦・積極的ヒロインが身体言語を駆使して男を翻弄する「刺さりどころ」がわかります。

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作品概要

タイトル
作者幾花にいろ

comicアンスリウムで人気を博した鬼才・幾花にいろが紡ぐ女心の沸点。タイトル作〈丹〉では、11歳年下の後輩・丹羽が憧れの先輩を場違いな鉄道倉庫へ連れ込み、綱渡りの秘密の時間をやり遂げる。他にも互いの傷に舌を這わせる〈海〉や、依存写真に負けた女医の〈硝子〉など、口唇より皮膚が先に叫ぶ関係性の群像。全編カラーコミック6ページ入り。付録マンガでは著者自身が編集長×読者になって単行本執筆の裏側を赤裸々に語る。

作品の魅力

——アザと指痕を残したい。まずそんざいがしてしまう衝動が扉を開ける瞬間から心臓を早鐘に打たせる。幾花にいろは鍵を外すのがうまい。内気そうな丹羽が先輩の胸元に顔を埋めて「匂いだけでイキそう」と小さく洩らす瞬間、間接的な視線の錯綜が一気に掻き消される。硬直しきった先輩の頬をひっぱたくように自分のナイロン越しに押しつける。その「捕まえた」感が逆NTRの骨頂だ。こちら側に立つからこそ、男がまるで初々しい獲物と化す足取りが新たな悦びを刺す。

〈海〉では、小さな灯台に閉じ込められた元カノ同士が再会する。女に「今更何を?」と投げやりに息を吐く男と違って、ここの女は海風の匂いを帯びた唇で「忘れてたんだ」と呟くなり首筋を食む。『俺のせいで傷ついた』という博愛がむしろ膿んでしまった赤い傷あとを舐めて、元カノであることをこじ開ける。肉体的な痕を「大事な記憶」に変える射精までの時間は罪悪すら鵜呑みにしてコンパクトにまとまる。ショートでも、アフターで煙草を交わしながら「次はお前の番だよ」と脅す台詞の冷たさはたまらない。

もっと硬質な舞台へ移ると〈硝子〉が登場。精神科医の女が依存写真展に足を運び、過去に診断した少年の欲望を確かめに来る設定。「先生は触れなかった」と睨まれる瞬間から、覚悟より慚愧が先に走る。ピンホールカメラに捕らえられた自らの裸体を選ぶように、診察台を逆行させるジレンマ。幾花にいろは医療器械の金属光沢を凄味をもって描き、指ペンで過敏に震える肌を映す。診察という上下関係の虚構を引き裂く瞬間、丸腰の少年ドクターが強引に喉を締め上げる。また無慈悲な視線がビキビキとハジける音がとても彼女らしい。ヒロインが責める側と責められる側を行ったり来たりする速度に目眩がするほどだ。

カラー番外「アフタヌーン・フリークス」は著者自らが登場し、プッシュで赤字寸前な編集部を女体化してアドリブ上演。普通の描き下ろしなら「読者サービス」くらいで片付けるところを、幾花は躯体化してしまう。会議室の椅子で脚を開いたままペンを握りしめているふりの作者が「このオリジナル同人誌、全部売れたら俺の股間見せてやる」。攻めのメタネタ。18禁を武器にしながら、どこまでも「自分語りする女」の尊さを見せてくれる。そうやって単行本は完結しても、同人で続きを書く言い訳を残してくれる作家の狡猾さに拍手が出る。

気になる点

ショート主体ゆえ、3作品とももっと長く見ていたかった「余韻渇望症」が後を引く。キャラは揃って魅力だけど、丹羽と先輩の話だけはスピンオフが欲しいと書店の帯を睨んでしまう。

こんな人におすすめ

彼女に押し倒されて「終わった後は察して」という勝ち誇った笑みが見たい人。医療や鉄道など舞台装置に勃起を絡めるギャップフェチを求めている人。逆に女が受け入れながら攻撃的になる姿を陶酔したい人。

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